GUIDE

親の土地に家を建てる前に
使用貸借契約書が必要な理由

「タダで使っていい」は、口約束のままになりやすい言葉です。
家を建てる前に、親の意思を書面に残しておく意味を整理します。

親の土地に家を建てる話は、親族の間では自然に進みやすいものです。「地代はいらない」「好きに使っていい」と言ってもらえると、契約書まで作ろうという気持ちにはなりにくいものです。

ただ、無償だからこそ、使用目的、期間、費用の負担、返すときの条件を残しておかないと、相続や関係の変化のときに火種になりやすいです。このページでは、贈与税の考え方、住宅ローンを使う場合の段取り、きょうだいへの伝え方まで、建てる前に知っておきたい点を、行政書士の立場から整理します。

この記事で扱うケース
土地は親の名義であること、子がその土地を無償で使うこと、子が自分の名義で住宅を建てること、親子の間で地代を払わないことを前提に説明します。親が地主から借りている土地の場合は、地主との関係など別の論点があるため、個別にご確認ください。

すでに家を建てて住んでいる方もご覧ください。今から書面を作る意味は「すでに建てて住んでいる場合」でまとめています。

すでに親の家に無償で同居している方向けの話は、別ガイド「親の家に無償で同居している|相続前に決めておきたいこと」をご覧ください。本ページは、親の土地に家を建てるときの土地利用がテーマです。

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使用貸借とは(賃貸借・贈与・売買との違い)

使用貸借は、当事者の一方が無償で相手方に物を使用・収益させ、契約が終わったときに返還することを約束する契約です(民法593条)。賃料を払う賃貸借とは、無償かどうかで区別されます。2020年4月に施行された民法改正により、物を引き渡す前でも、合意だけで成立する契約になりました。いつ合意したか、何について合意したかを、書面で残す意味はここにあります。

使用貸借には、借地借家法による強い保護は基本的に及びません。建物を建てるために地代を払って土地を借りる賃貸借には、借りる側を守るこの法律が適用されます(借地借家法1条、2条1号)。一時使用のためと明らかな場合など、例外はあります。使用貸借には、この保護が及びません。加えて、期間や目的を口頭のままにしておくと、あとから「いつ、何を約束したか」を証明しにくくなります。返還を求められたときに合意の内容を示しにくくなるのは、このためです。

親の土地を子が使う方法には、無償で借りる使用貸借のほかに、土地の名義を受け取る贈与と、土地を買い取る売買があります。贈与では、贈与税、不動産取得税、登録免許税と登記が問題になります。売買では、不動産取得税、登録免許税と登記が問題になります。時価で買い取る場合、贈与税は原則としてかかりません。対価が著しく低いときは、みなし贈与(相続税法7条)として贈与税の検討が必要です。いずれも使用貸借とは別の検討になるため、税理士と司法書士にご相談ください。本ページで扱うのは、地代も権利金も払わずに親の土地を借りる、使用貸借です。

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無償で借りる場合、贈与税はかかるか

国税庁は、地代も権利金も払わずに親の土地を借りて家を建てた場合、その土地を使う権利について贈与税を課さない、としています。借地権に相当する額の贈与を受けたものとは扱わない、という整理です(国税庁タックスアンサーNo.4552「親の土地に子供が家を建てたとき」、国税庁法令解釈通達「使用貸借に係る土地についての相続税及び贈与税の取扱いについて」昭和48年11月1日付直資2-189)。ここで贈与税がかからないのは、土地の使用権の話です。親が建物の建築資金を負担する場合は、別途、贈与税の検討が必要です。

次の2点は、土地の使用権とは別の話です。

将来、親が亡くなったとき、その土地は人に貸している土地としての評価減が使えず、通常の自分の土地(自用地)として評価されます(同通達記3、No.4552)。

子から親へ渡す金額が多いと、税務上は使用貸借と扱われないことがあります。通達は、土地の固定資産税・都市計画税に相当する金額以下のやり取りにとどまる場合は使用貸借にあたり、権利金その他地代に代わる経済的な利益のやり取りがある場合は使用貸借にあたらない、としています(同通達記1)。この金額はひとつの目安です。当てはめは、個別の事情によります。今の負担額がこの範囲か、将来の相続税の評価にどう影響するかは、税理士にご確認ください。

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書面がないと起きやすいこと

「家族だから大丈夫」という口約束は、相続や関係の変化のときに、合意の内容や、いつ成立したかの証明が難しくなりやすいです。起きやすい論点は、次のとおりです。

  • 特別受益として主張される可能性 — 長年、親の土地を無償で使っていることについて、他の相続人から「特別受益(生前に特別に得た利益)にあたる」と指摘されることがあります。なるかならないかは、個別の事情で変わります。使用貸借であれば必ず特別受益になる、と決まるわけではありません。行政書士の立場で、どちらとも断定はできません。判断が必要になったときは、弁護士へご相談ください。
  • 期間や目的の定め方で、終了と解除のルールが変わる — 親の土地に家を建てるケースでは、建物を所有して住む、という使用目的があることが多いです。期間を定めていないときは、その目的に従った使用・収益が終わったときに、契約は終了します(民法597条2項)。目的に従った使用に足りる期間を過ぎたときは、貸主から契約を解除できる場合があります(民法598条1項)。期間も、使用・収益の目的も定めていないときは、貸主はいつでも解除できます(民法598条2項)。「一生住んでいい」と言われていても、口頭だけでは、その合意を証明しにくいことがあります。
  • 借主が死亡したとき

    条文上、使用貸借は借主の死亡によって終了します(民法597条3項)。この規定は、死亡後も続ける旨を別段に定めることができる、と解されています。

    建物を所有する目的で土地を使う場合には、借主が死亡しただけでは当然には終了しない、とした裁判例があります。個人的な信頼関係よりも、建物を所有して使う目的が重視される、という理由です。配偶者や子が住み続けられるかどうかは、契約の目的や合意の内容によって判断が分かれます。

    住み続けるのか、借主の死亡で終わらせるのかは、契約書に書いておくと、裁判例の当てはめに委ねずに済みます。

  • 土地を買い受けた人との関係 — 使用貸借は、貸主と借主の間の契約です。親が土地を第三者に売った場合、買主に対して使用貸借の内容を主張することは、原則としてできません。建物の登記があれば借地権を対抗できる、という借地借家法10条の仕組みは、地上権と土地の賃借権についてのものです。使用貸借には及びません。
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契約書に書いておく項目

家を建てる前提の使用貸借では、少なくとも次の項目を確認しておきましょう。決めていない場合にどうなりやすいかも、あわせてご覧ください。

チェック項目決めていない場合にどうなりやすいか
どの土地を、何のために使うか範囲があいまいだと、あとから認識がずれます。土地は、地番・地目・地積(登記事項証明書の記載)で特定します。敷地の一部だけを借りる場合は、図面で範囲を示す方法もあります。測量や分筆の要否は、土地家屋調査士にご確認ください。
いつまで使えるか、どうなったら終わるか前章のとおり、期間や目的の定め方によって、終了と解除のルールが変わります。家を建てて住む場合は、「建物を所有する間」という目的を定める方法があります。
建物の名義、建築費、固定資産税などの費用負担建物の名義と、建築費を誰が負担するかを決めておきます。固定資産税の納税義務者は、固定資産の所有者です(地方税法343条1項)。土地の固定資産税は親、建物の固定資産税は子が、それぞれ市町村に納めます。子が土地の固定資産税を負担する場合は、市町村との関係ではなく、親子の間の取り決めです。維持管理費・修繕費とあわせて、誰が、いつ、どう渡すかを決め、記録を残しておくと、あとから説明しやすくなります。
借主が死亡したときの取り扱い(配偶者や子が住み続けられるか)条文上は、借主の死亡で使用貸借が終了します(民法597条3項)。建物を所有する目的の場合は、死亡だけでは終わらないとした裁判例もあります。配偶者や子が住み続けるのか、死亡で終わらせるのかを、契約書に書いておきます。
親が亡くなった後の扱い貸主が死亡しても、契約は終了しません。貸主の地位は、きょうだいなどの相続人に引き継がれます。条項がなくても、相続人は既存の契約に拘束されます。契約書に条件を書いておく意味は、あいまいな約束を、親の意思として残すことにあります。
転貸・第三者使用、建て替え・売却の可否土地を第三者に使わせるには、貸主の承諾が必要です(民法594条2項)。承諾なく使わせたときは、貸主が契約を解除できる場合があります(同条3項)。建て替えや建物の売却は、契約で定めた使い方との関係が問題になることがあります(同条1項)。事前に親の了承を得て、契約書に書いておきます。
契約が終わったときの土地の返還と建物の扱い使用貸借が終わると、土地を返す義務があります。借主が土地に附属させた物は、収去するのが原則です(民法599条1項)。分離できない物や、分離に過分の費用がかかる物は例外です。建物は独立した不動産ですが、使う権利が終わったあとに残していると、建物を収去して土地を明け渡すよう求められるのが通常です。親に時価で買い取ってもらう権利は、使用貸借にはありません。借地借家法13条は、地代を払う借地の仕組みです。残す、取り壊す、買い取る、費用を誰が負担するかは、契約で決めておきます。
住宅ローンを使う場合、土地への抵当権の設定を親が承諾するか承諾が得られないと、ローンの手続きが進まないことがあります。共有名義の場合は、名義人全員の承諾が必要になることもあります。建築計画の初期に切り出しておきます(住宅ローンを使う場合に、事前に確認しておくこと)。

家族の話し合いでそのまま使える記入シートは、「家族で話し合うための記入シート」(09章)にまとめました。

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すでに建てて住んでいる場合

すでに何年も親の土地に家を建てて住んでいる場合でも、今から書面を作る意味はあります。親がどのような意図で使わせていたかを残すと、きょうだいがいるときの説明材料になります。

契約には、内容を理解し、合意する能力(意思能力。民法3条の2)が必要です。判断能力が確かなうちに進めるのが安全です。認知症があるから契約できない、と一律に決まるわけではありません。判断能力の状態によっては、契約の時点で意思能力が認められず、契約の有効性が問題になる場合があります。判断能力が大きく低下している場合は、家庭裁判所を通じて後見人を選ぶ成年後見制度が、選択肢になります。不安な場合は、できるだけ早めにご相談ください。

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住宅ローンを使う場合に、事前に確認しておくこと

住宅ローンを使う場合は、ローンの相談を始める段階で、次の点を金融機関に確認しておきましょう。書面は、遅くとも本申込みまでに整えておくのが目安です。

  • 土地に抵当権を設定するには、親(名義人全員)の承諾が必要になることがあります
  • 審査の過程で、使用貸借契約書の提出を求められることがあります
  • 建物が自分の名義になる場合、新築した建物の表題登記(土地家屋調査士の業務)と、所有権を初めて登記する所有権保存登記(司法書士の業務)が必要です

取り扱いは金融機関によって異なり、審査に通るかどうかは金融機関が判断します。土地が共有名義の場合は、名義人全員に早めに確認しておくと、手続きが滞りにくくなります。

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きょうだいがいる場合

土地を無償で借りることが決まったら、工事を始める前に、きょうだいへ伝えておくことをおすすめします。使用貸借は、貸主である親と借主である子の契約です。きょうだい全員の同意は、法律上は必要ありません。条件が固まり、工事を始める前に、「どの土地を、どんな条件で使わせてもらうか」を伝えておくと、あとから説明する手間や、感情的な対立を減らせます。

相続が始まる前にできること
特別受益の可能性に備える方法は、二つあります。一つは、使用貸借契約書に条件を残しておくことです。もう一つは、親に遺言を書いてもらうことです。

遺言は、自分で書く方法(民法968条)と、公証人が作る方法(同969条)があります。いつでも書き直せます(同1022条)。「この土地を使わせていたことは、遺産の分け方の計算に含めない」という意思を書き残す方法もあります(同903条3項)。

遺言があっても、きょうだいには遺留分があります。侵害された場合は、金銭の支払いを請求できます(同1046条)。遺言書の作成の支援は、行政書士の業務のひとつです。内容は、親の意思と、きょうだいへの配慮によって変わります。作る前に、専門家へ相談することをおすすめします。

きょうだいから「不公平だ」と言われ、遺産の分け方の話し合いや交渉が必要になった場合、行政書士が代行することはできません(弁護士法72条)。そのときは、弁護士へご相談ください。

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行政書士ができること・できないこと

当事務所で対応できるのは、当事者の双方が条件に合意したあとの、使用貸借契約書の作成と条項の整理です。

  • 当事者間の条件交渉や、説得の代行はできません(弁護士法上の制限)
  • すでに対立や紛争が起きているケースは、弁護士へ
  • 個別の税務判断や申告は、税理士へ
  • 登記の申請は司法書士へ、測量と分筆は土地家屋調査士へ

家族の話し合いで合意できていて、条件が単純な場合は、ご自身で契約書を作ることもできます。次のような場合は、行政書士への相談が役立ちます。

  • きょうだいに見せる書面を整えたい
  • 建て替えや、亡くなったあとの扱いを細かく決めたい
  • 親の判断能力が気になる
  • 公正証書にしたい

使用貸借契約書には、原則として収入印紙は不要です。印紙税の課税物件表に、「使用貸借に関する契約書」は載っていないためです。借りたお金の返済や、立替金の精算など、金銭の受領を証する内容が契約書に含まれる場合は、その部分が課税対象になることがあります。証明力を高めたい場合は、契約書を公正証書にする方法もあります。行政書士は公正証書の原案作成を手伝えますが、証書を作るのは公証人です。

依頼する場合の費用の目安

ご相談は何度でも無料です。「何も決まっていない」という段階からのご相談も歓迎しています。使用貸借契約書の基本プランは30,000円〜です(表示価格のとおりで、別途消費税はいただきません)。ヒアリング、契約書の作成(2通)、回数の制限がない修正対応が含まれます。当事者が3名以上になるなど、内容が著しく複雑な場合は、別途お見積りとなります。公正証書を希望される場合は、別途ご相談ください。

相談内容相談先
契約書の作成(当事者間ですでに合意ができている場合)、遺言書の作成の支援行政書士
贈与税・相続税・固定資産税など税金の判断税理士
所有権移転登記・所有権保存登記・抵当権設定登記司法書士
土地の測量・分筆、建物の表題登記土地家屋調査士
住宅ローンの審査基準・可否の判断金融機関
すでに対立が生じている場合の交渉、遺産の分け方の争い弁護士
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まとめ・次の一歩

使用貸借には、借りる側を守る借地借家法の仕組みが及びません。期間、費用の負担、亡くなったあとの扱いを、家族で決めて書面にしておく意味はここにあります。まずは、次の表をもとにご家族で話し合ってみてください。住宅ローンを使う方は、土地への抵当権の設定について親の承諾を得られるかと、金融機関への確認から始めましょう。

家族で話し合うための記入シート

話し合っておきたい項目決めたこと
1. どの土地を、何のために使うか(地番・範囲・目的)
2. いつまで使えるか、どうなったら終わるか
3. 建物の名義と建築費。土地の固定資産税と建物の固定資産税、修繕費を、誰が、いつ、どう払うか
4. 家を建てた子が先に亡くなった場合、配偶者や子が住み続けるか。死亡で終わらせるか
5. 親が亡くなった後の扱い
6. 建て替え・売却・人に貸す場合の扱い
7. 土地を返すときの建物の扱い(残す・取り壊す・買い取る、費用の負担)
8. 住宅ローンを使う場合、土地への抵当権の設定を親(名義人全員)が承諾するか
9. きょうだいに、いつ、誰が、どこまで伝えるか

使用貸借契約書の作成について相談する

対象不動産の状況や、家族関係の概要だけでも構いません。「何から話せばよいかわからない」段階でも大丈夫です。

奥田行政書士法務事務所

「親しき仲にも契約あり」

家族間の合意を書面に残すことは、信頼を損なうことではありません。 むしろ、大切な関係を守るための誠実な行動です。 当事務所は、家族間の特殊な事情と感情に寄り添いながら、 後々の誤解が生じにくい書面づくりをお手伝いします。

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